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深く静かに潜航せよ

細いステップを降り、重い扉を閉めて密閉ハンドルを回すと、中の気圧が少し上がる。
コンソール前のエンジニアがヘッドホンを装着すると、潜水艦zk-50は深く静かに潜航した。
七月。地上では長めの梅雨が未だ明けないが、この密室で行われているのはアルバムのレコーディングだ。
24ひき

数日前まで、PANTAが自宅で録ったアコギ一本の弾き語りだった新曲『乱破者』に、メンバーの演奏が肉付けされて行くのだ。
しかし、すべての声と演奏が同時に放たれるライブやリハーサルと違い、ミキシングを前提としたレコーディングで音源は別々に収録される。
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大きな扉を更に二度くぐって一番奥に籠ったのは、アーバンギャルドから参加の おおくぼけい だった。
彼のグランドピアノだけで聴く『乱破者』は、これだけでも歴史超大作を思わせる。

次に、厚いガラスに隔てられたブースに入ったのは、ギターの竜次、ベースの岳、ドラム素之助。
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彼らの音は、三人で組んだ方が演りやすいということで、同時に録ることになった。
キャメラを構えてその三人に紛れ込む俺。
どの音も逃すまいとブースの中にはそこら中マイクが仕掛けられている。
息をするのも躊躇いながら、俺は脇を締めてファインダーを覗く。

やがて素之助の連打で演奏が始まるが、ヘッドホンをしていない俺に聴こえるのは、
ここで鳴る三人の音だけだ。
PANTAのボーカルとギター、TOSHIのパーカッションもない頭脳警察の曲だが、空気の振動が全身を刺した。

音素材を収録すると、作曲者PANTAは必ず「いいかな」とディレクターのサイゾウも納得した音であることを確認して次に進む。
まるでバルブひとつの締まり具合が命取りになる潜水艦のように。

そして地上で煙草を吸い終わったTOSHIが降りて来る。
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「『和の音』を頼む」とPANTAに言われていたTOSHIがパーカッションを終え、次に取り出したのは不思議な筒だった。
これをマイクに翳して振り始めたが‥‥どんな音になっているかは、是非アルバムで聴いて欲しい。

アーティストとスタッフの運命共同作業は、山場のボーカル録りを迎えようとしていた。
キャメラの蓄電池を替えた俺にPANTAが声を掛けた。
「センジンクン調べといてくれないか」
頭脳警察×PANTAを撮り続けている俺だが、「センジンクン」が「戦陣訓」と理解されるまでに時間はかからなかった。
戦陣訓とは、大戦中に東条英機が全軍に達した訓令で、特に投降を禁じた『生キテ虜囚ノ辱ヲ受ケズ』の
一節が多くの戦死者を生んだとされるA級戦犯格の文言だ。
PANTAは、みずから書いた「死して屍 残すまじ」という歌詞がこの戦陣訓に由来したものでないか確認して欲しいという。
ドイツ・フランス文学を始めとして世界中の言葉を採集しているPANTAのことだ。
稀に漂流物が混じることもあるだろう。

244人

スタジオの事務室に駆け込んだ俺は「戦陣訓」と「軍人勅諭」を大急ぎでスタッフに刷り出して貰い、
読み込んだが「死して屍 残すまじ」は見当たらなかった。
PANTAオリジナルだった。
軍上層部はお呼びでない。「当局は一切関知しない‥‥」と消滅する指令テープを送られる
名もない者たちの方なんだとPANTAがニヤリとした。
俺の煤けた指先も、潜水艦zk-50のバルブを締めたのだろうか。

そしてアルバム『乱破』は出た。

ー文責・カントク(不行き届き)
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頭脳警察50周年プロジェクト

Author:頭脳警察50周年プロジェクト
激動の1969年に結成された頭脳警察。その半世紀の歴史と現在を追いかけるため、この2019年に新たなプロジェクトが始動しました。

名付けて「頭脳警察50周年プロジェクト」。それが我々の名前です。

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